中国上海に本拠地を置くスタートアップ「Gestala(格式塔科技)」は、設立から半年間で累計5.7億元(約137億円)の資金を調達した。同社は頭蓋骨を切らずに脳機能を制御・読み取る「超音波BCI」技術に特化しており、2026年7月には上海閔行の「脳智天地」産業集積区に本社を稼働させ、成都に世界初の超音波BCI量産工場を立ち上げた。この動きは、中国国内のBCIブームと政策支援の流れを反映している。

創業者である彭雷(Phoenix Peng)は、2021年に侵襲式BCI企業「脳虎科技(NeuroXess)」を設立し、麻痺患者がデジタル機器を操作するシステム開発に従事。しかし、電極による一点測定では脳全体の協調活動を捉えられないという技術的限界に疑問を持ち、自らの優位性を捨てて非侵襲型の超音波アプローチに転換した。その背景にあるのは、心理学の「ゲシュタルト理論」——全体は部分の総和を超える——という思想。この理念が、同社名「Gestala」の由来となっている。
超音波BCIは「書く」(神経を刺激)と「読む」(脳活動を検出)の二つの技術を統合する構想だ。「書く」側は経頭蓋集束超音波(tFUS)で、低強度(空間ピーク時間平均強度500mW/cm²未満)の超音波をミリ単位で焦点化し、深部脳領域(視床、海馬など)まで到達可能。実験では、線虫やマウスにおいて、機械受容イオンチャネル「Piezo1」が超音波反応の主因であることが確認されており、熱効果ではなく機械的圧力による神経興奮がメカニズムとされている。これにより、従来のTMSやtDCSよりも高い空間分解能と深部作用が可能となる。
「読む」側は機能的超音波イメージング(fUS)で、神経活動に伴う血流変化をマイクロスケール(100μm)でリアルタイム撮像。時空間分解能はfMRIの5〜10倍に及ぶ。非ヒト霊長類での研究では、運動意図の単一試行デコードが成功しており、オンライン閉ループ制御も実現済み。ただし、健常な頭蓋骨越しにヒトの意図を正確に読み取った実例はまだ存在せず、血流変化と神経発火の間に約1秒の生物学的遅延があるため、同社はAIモデルでこれを0.5秒以下に補正する試みを進めている。

Gestalaの第一世代製品は、前帯状皮質を標的とする慢性疼痛治療器。2024年の臨床試験では、20名の患者に40分間の刺激を実施し、副作用は軽度で24時間以内に消失。同社のパイロットデータでは、痛み評価が約50%低下し、効果持続期間が1〜2週間と報告されている。ただし、独立研究では効果量にばらつきがあり、有意差が出ないケースも複数あるため、大規模比較試験での確定が必要。対象疾患は帯状疱疹後神経痛、線維筋痛症、三叉神経痛、がん性疼痛など、薬物治療に不適応な層に限定。
技術的課題として最大の障壁は頭蓋骨の音響特性。骨は超音波を減衰・屈折・歪ませ、焦点がずれると効果が失われるだけでなく、誤刺激のリスクも生じる。同社はフェーズドアレイと収差補正技術を採用し、CT画像に基づく個人差に対応。柔軟なプローブ設計と時間反転法を組み合わせ、2025年以降の研究でも最先端とされるが、実用化にはさらなる工学的精度が求められる。また、最終段階として「音響遺伝学」(標的細胞にPiezoチャネルを遺伝子導入)も検討中だが、これは遺伝子操作を伴い、「非侵襲」という看板と矛盾するため、前臨床段階に留まる。
商業戦略は慎重で、彭雷は「厳格な医療機器→在宅医療機器→消費電子」の順序を守ると明言。海外の競合であるMerge Labs(2026年1月に2.5億ドル調達)とは方向は似ているが、Gestalaは医療から入る漸進的アプローチを選択。中国の政策支援(「十五五」規画におけるBCIの未来産業指定)、豊富な臨床リソース、低い臨床コスト、完備したサプライチェーンを活かして、米国との「並走あるいは追い越し」を狙っている。
今後の注目ポイントは、第一世代の慢性疼痛治療器の臨床データ公開と第3類医療機器承認プロセスの進捗。特に「全脳を読む」「読み書きの閉ループ」は、まだ誰も到達していないフロンティアであり、技術的確度は高くない。中国のB2B業界関係者は、同社の技術実装力、データ品質、および医療認証取得スピードを継続的にモニタリングすべき。特に超音波の焦点精度、個別化補正の再現性、および長期的な安全性データが、将来の市場参入可能性を左右する。
